前回からの続きです
読売新聞の記事では「市が(道路)計画を凍結する理由の一つとしたヒメボタルは減少傾向にある」と述べ、その根拠としてビオトープ管理士の長谷川さんのデータとコメントを引用しています。これに対して、多くの疑問が投げかけられています。
その最大のものは、「ほんの一部分の人工植栽地でのデータが、相生山緑地全体の整備計画への問題提起になり得るのか」という点です。
シェルターと上部の植栽地 記事中「トンネル」という言葉が使われていますが、ここは山地をくり抜いたトンネルではなく、斜面を削って道路をつくり、その上にコンクリートのシェルターをかぶせ、その屋根部に土を敷き植栽した「人工庭園」ともいうべきものなのです。
なぜ、こんなに面倒なことをしたのでしょうか。「道路建設は環境破壊」という世論に対して、「環境に優しい道路をつくる」とした道路建設の象徴、「道路が出来ても自然は壊されていない」証拠が必要だったからとしか思えません。
「(分断された)森の非連続性を復元する」とし、「相生山の中の土を運び、相生山で採取した種子や実生苗」を植え、苦労して「育て」てきた「相生山の森」。しかし残念ながら、人工の森です。その証拠に「維持するため、適宜に間伐しなければならない」(市の施工ワーキング報告より)とされ、現在も「手入れ」が続けられている様子です。
シェルター上の植栽地2015.3 人が土を運んだり、種子を蒔いたり、間伐を要する「自然の森林」など聞いたことがありません。
森林は地球の歴史の中で形成された地質や土壌の上に存在していますが、この「森」の浅い底はコンクリートで固められています。大きく伸びた高木層の根はどうなるのか、私はいつも「天空の城ラピュタ」の映像を想像してしまいます。
もっとも、権威とされている大学の先生が「ホンモノの森づくり」と称して各地に植栽する活動がブームになったりしました。でも、その経年変化や結果は自然とは、かけ離れたものになっているようです。相生山のこの「人工庭園」においても、相生山緑地内のどこにも生育していないカラスザンショウが大きく育っていて、「相生山の自然とは別物」と実感したことがあります。
シェルター上から名古屋市街を望む シェルターの存在は、道路建設にとっては「環境破壊」の目隠しであり、今となっては残念ながら「ムダの象徴」でしかないように思えます。このシェルター上でのヒメボタルの消長が、「これからは自然を大事にしていく精神でいく(河村市長2014.12.26)」相生山の未来構想にとって意味があるのでしょうか。
「人工庭園でのヒメボタルの経年観察結果」というテーマだとしたら、私たちにはその試みの意義が理解できません。だって、すぐ隣りに、包み込んで広大な、人びとが長い時間つき合ってきた自然豊かな森があるのですから。
また、ヒメボタルだけが相生山の自然ではないので、そのデータだけをとって云々することには共感できません。このことは後述します。
新緑のコナラ林 さらに問題なのは、長谷川さんのコメントとして紹介されている以下の部分です。「(ヒメボタルの減少に対して)事業のストップで市が緑地の手入れを中断している為ではないか。結論を急ぐ必要がある」
このブログでも、「森の手入れ」についてはくり返し問題提起してきました。タグ「森の手入れを考える」
こちら また出てきたか!と正直思いました。
人間が「手入れ」をしなかったら、自然が滅びるなどと考えるのは、人のおごりでしかありません。自然はヒトの生存の命運も掌中にしつつ、超然と存在しています。自然の遷移の中で、ある種が滅びたり、繁栄したりは普遍的にありうることで、人がどうこうできるものではないでしょう。なので、自然とのお付き合いは楽しいのです。
「秘密の小径」のヒメボタル 相生山緑地に、あるいはその近辺に長く住んできた人びとの話では、「子どもの頃は(半世紀以上前)今の比ではなかった。森の中の道にジュウタンのようにヒメボタルが光っていた。しかも夕方の早い時間から」とのことです。ここ数年のことではなく、長期でみた時、ヒメボタルは減少傾向にあるのでしょう。
その要因は、自然の流れなのかもしれませんが、人による都市の拡大であったり、人も大いに関係しているとされる「地球温暖化」であったり、相生山の道路工事の影響も考えられます。工事が始まってから、キジやフクロウなどの野鳥やタヌキなどの哺乳類が姿を消したと聞きました。こうした人為的な生態系への改変、その動向にこそ注意を払う必要があると思います。
そして、それは短期ではなく長期にわたって、部分ではなく多岐全般にわたって、調査し分析し、結論を導き出すものでしょう。そうしてこそ、比較的正しいと思える方針が提起されるものと考えます。そうしてもなお絶対ではなく、比較的です。自然とのつき合いはそうしたものと考えています。
そのときに忘れてならないのは、その調査や分析・考察している間にも、破壊が進むかもしれないということです。私たちは、明らかな「人による自然破壊」を警戒し続けていきたいものです。
<次回に続きます。ご意見をお待ちします。関連してタグ「道路は要らない」
こちら にも目を通していただきますように。>
by Oak.+アイ
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